FC2ブログ

Post

        

「わたしを離さないで」 カズオ・イシグロ  その1

category - 日記
2017/ 11/ 18
                 
カズオ・イシグロ氏がノーベル賞を受賞、インタビューの映像をニュースで見ましたが、
私は氏の作品を読んだことがありませんでした。
ミーハーなので、何かポチしようと思って買った本です。
テレビドラマをあまり見ないので知りませんでしたが、日本でもドラマになったそうですね。

主人公キャシーが語る、一人称の形の小説です。
途中で登場人物の一人称の語りに変わることはなく、最初から最後まで、キャシーの語りですから、
登場人物の視点も、実はキャシーから見た視点であるという認識が、
この形の小説を読むときには必要かなと思います。
語り口は、終始、淡々と落ち着いていますが、キャシーも周りも、本当にそうだったのか、
それはだれにもわかりません。

キャシーは優秀な「介護人」で31歳。介護人歴はもうすぐ12年。
丸12年が終わったら、仕事は辞めることになっています。

介護人とは、「提供者」の世話をする仕事ですが、キャシーは優秀なので、
介護した提供者たちを「安静」に保つことが多く、「動揺」に分類される事例は
「4度目の提供」以前でさえ、ほとんどいませんでした。
「へールシャルム」出身です。

3回目の提供を終えた提供者を介護していた時、命が長くないその提供者は、
介護人キャシーがヘールシャルム出身者だと知ると、いろいろ聞きたがったそうです。
逆に「あなたは?」と話してみると、強い嫌悪の表情を見せました。

キャシーは提供者に、求められることは何でも話してあげました。
この人は、劣悪な環境で育って提供者となったために、死を間際にむかえて、
キャシーの育ったヘールシャルムの話を、自分の子供時代のこととして、
「思い出したかった」に違いない、と思いました。
だから繰り返し話を聞いて、心に染みこませたいのだと理解したキャシーは、
できる限り、提供者に望まれるままに話をしました。
そして自分がヘールシャルムで育ったことの幸運を思いました。
死にかけている提供者ですが、家族の姿は描かれず、世話をするのは介護人のキャシーです。

このように「介護人」「提供者」「安静」「動揺」「4度目の提供」「ヘールシャルム」など、
読者に「これはどういうことだろう」と思わせる謎の言葉をちりばめながら物語は進みます。

トミーは、ヘールシャルムの中では、癇癪もちで目立つ男の子でした。
キャシーと仲良しのルースなどは、かなりトミーをバカにしていました。
トミーは笑いものや嫌がらせの対象になってしまうことが多い男の子でした。

ヘールシャルムは、キャシーの語り口では、幼い頃から入る寄宿舎のようです。
先生は「保護管」と呼ばれていました。「先生」とも呼ばれますけど、
年に4回ほどの「交換会」があり、自分の作品を出品するとそれを保護管が見て、
出来栄えに応じて交換切符をくれるので、交換会で何か買うことができました。
生徒の詩、絵などを買って、「宝箱」に入れるのです。

学校外でお金で何かを買うどころか、学校外に出ることもないようでした。
ヘールシャルムの外に出てしまった子供たちが恐ろしい死に方をしたという言い伝えも聞きました。

「マダム」が年に数回来訪して、優秀な作品を校外に持ち出していきました。
絵ややきものやエッセイ、詩など、保護管が選りすぐった中から、マダムが選んでいきました。
いい作品は「展示館」に運ばれると噂されていました。
軽い悪戯から、マダムが自分たち生徒をとても怖がっていることがわかったのは8歳の頃でした。
でもそれは本当は前からわかっていたのだ、とキャシーは後に思いました。
5~6歳の頃から、教えの一部は染み通っていたので、自分たちが、
外の人間ととてつもなく違うのだと本当に分かる瞬間が来ると知っていたのだと。

タイトルの「わたしを離さないで」は、キャシーが持っていたカセットテープの歌のタイトルです。
もとはLPだったけれど、キャシーの持っていたのは、カセット版でした。
カセットというのはある意味コピーです。
このような、示唆的な表現も、たくさんちりばめられている小説でした。

キャシーはこのカセットのジャケットで、歌手のジュディがタバコを持っているので、
カセットを人に見せるのがはばかられていました。
ヘールシャルムでは、タバコには非常に厳しく、有名な政治指導者の手にタバコがあるだけで、
授業の最中でも、タバコに関するお説教がありました。
これも大事な示唆です。
キャシーたちがどういう種類の人間なのか、もうおわかりですね。

キャシーはひとりになれる時間を見計らって、このカセットでお気に入りの曲を聞きました。
「ベイビー、ベイビー、わたしを離さないで」のリフレインの部分が大好きでした。

キャシーの想像の中では、これは赤ちゃんを抱く母親の歌でした。
赤ちゃんが欲しいのに産めないと言われていた女性が奇跡的に赤ちゃんを授かるのです。
幸せと、この幸せを失いはしないかという不安でいっぱいになった母親の歌。
キャシーはある日、赤ちゃんに見立てた枕を抱いて、
このリフレイン部分を歌いながら踊っていました。

それを偶然にマダムが見てしまいます。
寮では、就寝時以外にはドアは半開きにしておく規則があったので、見えてしまったのです。
そして驚いたことにマダムは泣いていました。
キャシーを見る目は、いつもの、気味の悪いものを見る目でしたが、しゃくりあげて泣いていました。
2年後にそのことをトミーに話した時には、トミーもキャシーも、
自分たちは全員、子供ができない体だということを知っていました。

15歳の時、クラスの生徒の1人、ピーターが友達に「映画俳優になれたらいいな」
「俳優になるには、アメリカに行くのが手っ取り早い」などと話しているのを、
ルーシー先生が聞きとがめました。そして話しはじめました。

「あなた方は教わっているようで、実は教わっていません。それが問題です。
形ばかり教わっていても、誰一人、本当に理解しているとは思えません。」

「あなた方には見苦しい人生を送ってほしくありません。そのためにも
正しく知っておいてほしい。いいですか。あなた方は誰もアメリカには行きません。
映画スターにもなりません。スーパーで働くこともありません。」

「あなた方の人生はもう決まっています。これから大人になっていきますが、
あなた方に老年はありません。中年もあるかどうか。
いずれ臓器提供が始まります。あなた方はそのために作られた存在で、
提供が使命です。」

ルーシー先生がこんな話をしたという話はすぐ広まりましたが、
興味の中心は、話の内容でなく、なぜルーシー伝声が突然そんなことを?ということでした。
内容については「とっくに知っていたじゃん」という反応でした。
でもその日以降、提供についてのの冗談は影を潜め、
深刻な自分の問題として、物事を真正面にとらえるようになりました。
ルーシー先生の学校内の立場は悪くなり、先生は学校を去っていきます。


長い小説をこの感じで書いて行ったら、まだまだ続きそうですが、
今日は仕事に行くのでこの辺で。




スポンサーサイト



                         
                                  

コメント

非公開コメント
        

No title
おはようございます(^^)。

観ました、、、

今日も笑顔で素適な一日を過ごしましょうhttps://s.yimg.jp/images/mail/emoji/15/ew_icon_s309.gif">https://s.yimg.jp/images/mail/emoji/15/ew_icon_s316.gif">
No title
みゆきママさんへ

映画を見られたのでしょうか?
私は映画もドラマも見ていなくて、小説だけです。
映画はともかくドラマ化はちょっとびっくりです。暗くて重い話なのに。