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役に立たない日々 佐野洋子 その1

category - 日記
2011/ 05/ 19
                 
佐野洋子さんのエッセイ。

「パンがなかったので、コーヒー屋に朝めしを食いに行く」なんて書いてあります。
壁を背にして6個くらいのテーブルがあり、
そこでタバコに火をつけて壁を背にしている客が
全部ババァだった、全部遅めの朝めしらしかった、そうです。

その「朝めしバアさん」たちを観察しながら、
人が見たら私も変だ、と断言しているのがおかしい。

「ジーパンにインド刺繍の上着を着て、
足は西友で500円で買ったつっかけをつっかけている。
昔はこんなバァさん居なかった。
きっと全部独り者のオーラが立ち上っているだろう。
明日同じ時間に来たら同じ顔ぶれかも知れない。
そして誰とも話をしない。意味もなく力がわいて来た。」

おばあさんの入り口にいた佐野さんの、
料理を作ったり、テレビを見たりといった、
淡々とした日常が描かれているんですが、これが面白いのです。

特に電話の会話は絶品。

ある日、友人にみかんしぼり器をもらう約束をして、
宅急便でとどいたそれを喜んで台所の出窓に置こうとしたら、
そこには既に新品のみかんしぼり器が置いてあり、
それを2ヶ月前に買ったことを思い出した佐野さんは呆然とします。
台所の出窓は毎日目に入る場所でした。
立ったまま泣き出して、大泣きのまま、友人に電話します。

「あのね、わたし本当に、もう呆けちゃったヒィ、
あんたにもらったみかんしぼりヒィ、自分でもう買ってあったのヒィ」
「えっ」
「毎日見てたのに気がつかなかったのワーッ」
「・・・・そういうことあるよ、大丈夫だよ、わたし、
家の中で包丁なくして、まだ出てこないよ。」


別の日には友人から電話が入る。前回の友人と同じかどうかは不明。
「どうしてる?」(友人)
「どうもしていない。あのさあ、私やっぱ本当に呆けたよ。
昨日カードの明細書送って来たんだけどね、
電器屋で12万使っているんだよ。
何買ったか全然思い出せない。やばいよねぇ。」(佐野さん)
「あんたね、それ冷蔵庫!」
「それより私、貯金通帳見たら65万下ろしているのよ。
何に使ったかぜーんぜんわかんないのよ。」
「あんた、それ不動産所得税」
「あっ、そうだった。」


別に呆けかけて嘆いているだけの本ではありません。
物を知らず、失礼な雑誌の編集者に憎まれ口を聞き、
凹んで友人に電話した時はこんな感じの会話でした。

「あのね、私、いいオバアさんになるか、
悪いオバアさんになるか迷ってるの」(佐野さん)
「今さらなによ」
「もう私どんどん悪いオバアさんになっていくの」
「そんなら前はいいオバアさんだったの?」
「・・・さらに悪いオバアさんになってるの。
もうスピード違反になってる暴走族みたいなの」


佐野さんはガンで亡くなったのですが、
「ガンになったので、髪の毛がメリメリと抜ける。
朝起きて、まずガムテープを手に巻いて
枕についた毛をペタペタとはりつける。
私、どうしてこういうことが好きなんだろう」
と書き、
「いくら好きでももうあきた、そうだ、
美容院に行ってバリカンで刈ってもらおう」
と思いつき、
丸刈りにして、帽子をかぶって、お母さんのいる施設に行きます。
(お母さんは前にブログに書いたシズコさんです。)

母の寝床にもぐりこんだ。
母は私の坊主頭をぐりぐりなでて、
「ここに男の子か女の子かわかんないのが居るわ」と言った。

「母さん、私しゃ疲れてしまったよ。
母さんも90年生きたら疲れたよね。天国に行きたいね。
一緒に行こうか。どこにあるんだろうね。天国は」
「あら、わりとそのへんにあるらしいわよ」

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