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2017年11月19日

        

「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ  その2

category - 日記
2017/ 11/ 19
                 
ヘールシャルムの子供たちは、卒業まで、外に出ることはできません。
授業で、写真を見ながら、ここは~という場所ですと習ったりしますが、
ノーフォークという土地のことを習うときには、写真がありませんでした。

「ノーフォークは国の東端です。海に突き出す半島にありますから、
ここからどこかへ行くということができません。」
「静かないいところですが、見方によってはイギリスのロストコーナーとも言えます」

この「ロストコーナー」という言葉が子供たちに受けました。
先生が「忘れられた土地」という意味で言ったのは子供たちもわかっているのですが、
学校内の落し物が集まる場所が「ロストコーナー」と呼ばれていたために、
イギリス中の落し物を積んだトラックが、イギリス中から列をなして集まる土地、
という想像がおかしくて、子供たちに受けたのです。

在学中に、「わたしを離さないで」のカセットテープを失くしたキャシーですが、
卒業後に、ノーフォークに出かけて、そこで同じカセットテープを
売っている店を見つけたというシーンも後に出てきます。

1度目を読み終わり、この「ノーフォークはイギリス中の落し物が集まる土地」の
話のシーンを読み返して、胸がつかえる思いをがしました。
自分の臓器に、病気やけがで損傷を負った人たちは、まるで落し物を探すように、
クローン人間の子供たちから、臓器を取り戻していくのだと感じたので。

幼いころから、あなたたちは臓器を提供するために生まれたと教えられ、
その運命を受け入れるしかないと教えられてきたヘールシャルムの子供たち。

深い苦しみと絶望感を抱えながらに決まっていますが、
生まれた時からずっと、外の世界と隔離された中で、少しずつ、
この運命に従うしかないという感覚を、刷り込まれた子供たちは、
そのことで大騒ぎしたり、絶望感を表わしたりはしません。

キャシーは淡々と思い出話を語っていきます。
淡々としていないと壊れてしまうから?受けいれるべきだから?

癇癪もちのトミーは、みんなの笑われ者だったけれど、
臓器移植のために作られたクローンという運命を背負いながら、
パニックも癇癪も起こさずに暮しているのが「普通」でしょうか。

設定が臓器移植のためのクローン人間の話という特殊なものなので、
私には関係のない作り話と読み進めるのですが、
作者の描いているのは「搾取するものとされるもの」であり、「不条理」であり、
「人間とは何か」ということだと思います。
私たちと無関係のものとは思えません。

臓器を提供することによって、健康も人生も愛する人と手をつないでいる時間も、
なにもかも奪われるのは、提供を当然とする「クローンではない人たち」がいるから。
世の中には奪う人と奪われる人がいるのも事実です。

ノーフォークはイギリス中の落し物が集まる土地!と同級生たちとおどけて話した思い出も、
「わたしを離さないで」の曲を聞き、好きなリフレイン部分を歌いながら、
赤ちゃんに見立てた枕を抱いて踊った思い出も、誰にも奪えないキャシーの大切な思い出。
思い出は奪われないけれど、そのほかはすべて差し出さねばいけない?

あらすじに戻ります。
ヘールシャルムを卒業した子供たちは、コテージに住むことになります。
外の世界には保護官はいません。
ヘールシャルムの教育では、たばこは厳禁でしたが、セックスは問題ないことでした。
ただ、外の世界ではセックスは妊娠に繋がるので重大事項であり、
子供が生まれないクローン人間とは違う、重大事項です、と教えられます。
だから、重大事項のように扱うことは大事だと言われていました。

キャシーの友人ルースは、トミーとカップルになっていました。
ルースはいつもトミーをバカにしていたので、不思議な感じがしましたが、
トミーとキャシーはお似合いだったので,ルースが邪魔したかったためと後でわかりました。

ヘールシャルムを出てコテージで暮らし始めた最初の半年間は、
介護の訓練などの現実的なことが始まっていなかったことで、
将来の計画を語り合いました。

もう現実的なことが始まっていた先輩たちは、
そんな話が始まるとため息をついて部屋を出て行ったようでした。

映画スターなどという大きな夢ではなくて、郵便配達、お百姓さん、運転手など、
ささやかな、それでも決してかなわない夢を語って盛り上がりました。
ルースは、広告の写真に刺激されて、こんなきれいなオフィスで働きたいと
熱弁をふるったりしていました。

外の世界に出たら、運転して出かける自由もありました。
何人かでノーフォークへ出かけることになりました。
出かけ先で、ヘールシャルム出身であるキャシー、ルース、トミーは
他の出身であるカップルの仲間に「猶予」のことを聞かれます。
「カップルが心から愛しあっていることを証明できたら、猶予が与えられる」といううわさがあって、
あるカップルは、誰かに会いに行って、3年間の猶予をもらったらしい、
その2人は、訓練も何もなしの丸3年間を、自分たちだけのために使うことができたらしい、
そういう規則をヘールシャルム出身者は知っているのではないかというのです。

3人ともそんな話は聞いたことがなかったのですが、ルースは知ったかぶりしたり、
謎めいた言い方をして気を持たせる癖があり、知っているふりをします。

グループは、途中で別行動をとることになり、キャシーとトミーは、
昔キャシーがなくしたカセットテープを売っていないか、探しに行きます。

まだ続きます。


            
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